小椋佳さんの縁語と創造性

 作詞家の小椋佳さんは若い時に相当悩んだそうだ。人は何故生きるのか、創造性のみが生きる証にみたいな哲学的に深く思慮することなく、東京大学を卒業してしまい社会に出てしまったことを悔いていることを吐露している深夜TV番組を令和3年7月の最後の日、8月1日にならんとする前の時間帯に私は観たのだ。

 私は創造性が人の生きている証だというような小椋氏的哲学的な思唯もせず、機械的に、人間味もなく只、効率よく発明をしたい、創造をしたいと理由で、よく世間で言われているような閃きで発明出来たとか、創造できたとかというプロセスをもっと科学的にやりたいと、若い頃から考えていた。次のイノベーションというプロセスを外部からインプットする前に、図解は省くが言葉の連関性を少し数学的に纏めることによって出来そうだということを、サラリーマンを早期退職してコンサルティング業を始めて、異業種セミナー、コンサルティングセミナーで紹介する機会もあった。
 イノベーションという既存にあるものを新しい組み合わせで、今までにない機能や効果をもたらすという行動、活動が単に科学的発明という領域でなく、ビジネスの領域で叫ばれ、興隆し、大きな成果や事業実績を欧米企業があげて、国内企業も後を追いかけ、それなりの成果を示してきている。
 さて、小椋佳さんは作詞をする際に、縁語(ご縁があるという表現を使うが、類似している言葉、仲間のような言葉)を用いて、言葉の世界を広げて、創造性を高めているようなお話をされていたのだ。例えば、海という言葉から島、波というような縁語を発生させて、さらに生まれた島や波という言葉から次々と縁語を発生させて、言葉を紡ぎ、唄の歌詞を創造していく独自のプロセスを作り上げたそうだ。それらはまさにイノベーションであって”苦しんで生み出す”そうだ。そのTV番組では奥様の談話があって、本当は”楽しんでやって欲しい”との事だった。小椋さんの縁語というやり方は中心の言葉があってその言葉から比較的容易に類推、創りだせる言葉の集合体といえる。
 閃きを科学するプロセスは言葉、そのものではなく、言葉の集合体で説明される知の一つの事象で、例えば中心の事象xxがあって、容易に類推できる事象xxxと容易には類推できない事象yyyがあって、容易に類推出来ない事象をある段階、あるステップで繋ぎ、今までにない事象を見出していこうとする方法である。
 小椋さんの縁語でも、海から容易に創りだせる島や波という言葉でも、逆に島から”海”という言葉を思い浮かべる重みと波から”海”という言葉を思い浮かべられる重みとは同等でなく、違うはずである。それも人の経験や背景で違うのも当然であろう。海から島を思い浮かべる頻度と島から海を思い浮かべられる頻度が異なるということだ。

異業種の会などで私の紹介した5つの事象例は
 A 水は0度で凍る。
 B 氷は0度で溶ける。
 C コップに入れた水と氷の共存、冷たい飲み物
 D コーラを飲む。炭酸水、氷、味の共存。
 E 塩を加えると温度が下がる、添加物を加えると凝固点温度が下がる。

 ここで一つ一つの事象の間に連関ベクトルを定義する。一般に連関ベクトルの大きさの特徴は異なり、例えばA-B B-Aはほゞ同じ大きさと思われるが、A-E E-Aは異なる。さらに、A-C C-Aや
C-D D-Cも異なる。さて、これらの事象を4ステップで繋ぎ、その連関ベクトルが小さいと推定されるルート、D-C-A-Eによって、コーラを飲む—添加物を加えると凝固点温度が下がる という普通は類推しないような事象にも注目してみようという、知的財産創造プロセスへのアドバイスになる信じ、提案している。紙面が限られているので、ご自分の創造したい領域で、考えてみてはいかがでしょうか。

 素人の戯言で申し訳ないのだが、小椋さんの縁語は文字が読めない・書けない小さな子供でも諳んじられる音を中心とした「ことば」で紡がれ、自然発生的に創造される歌詞とメロディーが上手く共鳴するように織り重なって、心地よい歌を沢山生んだものに違いないと確信した。
  「歌創り50年青春に帰る」というTV番組のタイトルも、何か老け込んだと言っても怒られない、誰もが否定はされない今現実の小椋さんではあるが、彼の若さ、あどけなさは彼の歌詞・メロディーに染み入っており、それらが若い人に引き継がれ口ずさまれ、生き続けていく。