古来から人類は火を崇めて来た。
それは天から降ってくる隕石などか、身近で頻繁に発生する雷(稲妻)なのか、諸説あるが、言えることは人知を超えた自然界の力(神)としての火があった。
火を自分の支配下において、火を起こす道具を開発し、たき火で暖を取り、明かりを得て、人類の生活は大きく変わった。正確にはそれがいつごろだったのか定かでないが、夜の社会生活が人類、民族に生まれ、大きな集団へと発展する糸口の一つになったことも確かであろう。
さて、そんな可燃物を燃やし、火を得ていたのであるが、それが所謂材木類から、燃える水(自然にわき出る石油)や燃える石(石炭)の発見をして、人類は先史時代から、日本で言うと江戸時代後期まで来てしまった。その途中では植物、動物の脂を燃やして、火を得ることも発見した。
蝋燭、行燈などは、なじみ深い言葉になってしまった現代である。一つ忘れてはならないのが、燃える水や燃える石の争奪が社会構造を大きく変え、争い、経済の根幹を支配してしまっていることである。
人類が青銅器、鉄器を得るためには、鉱石を高温度にしなければならない。それには所謂燃料を燃焼させて、高温度にして、なおかつ還元状態にして金属を得たのである。精錬技術の登場である。
17世紀には精度の良いレンズが開発され、それを使うと昼間太陽光でも高温度が得られる時代にもなって来た。当時はワットの蒸気機関もなく、有効なエネルギー源としては捉えられなかった。
19世紀に電気発電が考案されると、すぐさま電球が発明された。蝋燭、行燈などの燃焼で得た光から、電気抵抗線の発熱・発光による光が生まれたことになる。その現象は燃焼という化学現象から、物理現象の輻射という全く異なった物へ変化した。
ちょうど、電球照明が出回り始めようとする時、既に大規模にガス灯が広まっていて、その経済的事業活動者と競合しなければならなかったそうである。また、エジソンといえども、ガラス玉の中に竹を炭化した線に電気を通した初期の電球では競争に勝てるわけでなく、その後タングステン(金属)に電気を通して、明るさや寿命を大きく改善したものが出回ったのである。
調べると、そのタングステンを使おうと開発したのはエジソンの電球と競合していたガス会社だったそうである。
時が流れ、20世紀半ばになると今までになかった半導体というものが材料技術の高精度化(純度や不純物の制御)で世に出てきて、真空管の機能を微細化したトランジスタと光を得るダイオードやレーザの開発が進んできた。これらは、照明ではなく、コンピュータや通信の分野を大きく発展させる力となった。
照明では蛍光灯が1926年に考案され、抵抗加熱による発光(電球)よりも効率が良く、安価で市場に出回るようになった。これは金属イオンの励起による紫外線を蛍光体材料で発光するというどちらかというと、少し難しい量子光学物理現象の応用である。
20世紀後半になって、大規模照明ではないが、目印や目には見えない赤外線を使ったリモコン装置に発光ダイオード(LED)で得た光を利用するようになった。通信分野で使われている発光半導体は非常に高価で、日常生活の照明には向かなかった。
しかし、21世紀に入って、このLEDが注目され、大量生産され、価格も下がって来て、照明用途に注目されている。その理由はエネルギーの利用効率が良く、低炭素、環境に優しいという省エネ、エコに相応しいということだ。
今まさに(2010年)、2000-5000円という価格レベルのLED照明が市場に出回り始め、人の生活における照明に、こんな難しい原理に基づいた機器が入り込んで来たわけである。
これらの実現過程では、莫大な研究開発予算が官、民で注がれ、これは全世界の経済戦争の一翼にもなりかねない。それは希少半導体材料資源の確保や特許などの知財権係争、LED素子が搭載された主要応用製品である液晶TVのメーカ間競争は、世界経済を揺るがす規模になっている。自動車のヘッドランプにもLEDが搭載され、全てエコ、省エネの合唱連呼に依るものである。自動車産業も競争に絡んできている。
一つ忘れてしまいそうなことを話したい。青色、白色LED照明で、“冷たい光だね”とよく聞くことがある。これらLED光には、人が温かみを感じる赤外光の成分が決して含まれていないのである。人の目に見える、赤、緑、青の光(可視光)をごまかしで混合・組み合わせて白っぽい光としている。
その無駄な発熱成分を抑制して、エコ、省エネを唱えているが、LED 照明機器からは半導体デバイスから発生するかなりの熱を発散しなければならない。それは光でないので、暖かくは感じない。機器を触ると熱く感じるものである。
人は、その暖かく感じる照明を求めているような気がする。何しろ、寒い時の焚き火は文句なく最高ですから。
注:イノベーション
「従来技術の新しい組み合わせで創る」とよく言われている。従来の競合技術の組み合わせでは実現できない、「他の原理に基づく既に存在していた技術」で、先行競合技術では実現できなかったことを実現させること。
照明の例;
化学的燃焼 -> 電気通電抵抗発熱 -> LED 半導体接合とスペクトル制御 など、教科書に掲載されている項目である。