手もとにあった冊子のページ(注1)をめくると、松尾芭蕉が江戸をたち、東北地方を目指して奥の細道の第一歩となった日は、遡ること西行法師の没後五百年忌であったという事が記されていた。それは偶然でなく、芭蕉がその日(西暦1689年の元禄二年三月二十七日陰暦)と決めていたのである。それは西行法師が陸奥に旅立ち、歌を詠んだことに起因し、芭蕉が自らも西行法師の辿られた跡をなぞることで、歌の技量を高めたいとか西行が実体験したであろう事を自らも同様な実体験できる(五百年という時空を隔てても)のではという強い願望があったと推察される。さらに、芭蕉を慕い、芭蕉の没後五百年になって(西暦1694年十月十二日陰暦が芭蕉の没年)西暦2194年になるが、自らも芭蕉の奥の細道を巡った江戸と言う時代の経験を実体験したいという方が現れるであろうかは分からないが、現状の東北各県の人口減少を鑑み、果たして没後五百年(西暦2194年)に徒で巡るんだという強い意志をお持ちの方がおられるかも知れない。西行法師、松尾芭蕉、〇〇■■という名の方が現れ、五百年、千年間の文化の継承を個人の強い意志で成し遂げた。というようなニュースが未来人は果たして聞けるかどうか?
現代で自分の回りでそのような事(類似の事)を実際に実行した人、又は今計画中の知合いはいらっしゃるのだろうか。
新型コロナウィルス感染により世界中で行動が制限されて、特に陸続きの国境間を挟む二国では国境封鎖までして・・・・我が日本では大海に囲まれているがそれでも完全隔離は出来なかった。船舶・飛行機など手段によって人の移動が特別なケースで許されるので、2022年に2021東京オリンピックを開催したぐらいなので、段々と新型コロナに慣れっこになってしまった。
そんなこんなで、地元の町会・自治会などの行事を皆で合意の上で、暫く中断してしまった。そして、毎年行っていた地元の餅つき大会や節分の豆撒きが昨年四年ぶりに行われ、今年の夏には、二年おきに行う神社の本祭が六年ぶりに行われようとしている。この四‐六年という短そうな期間でも実際に準備に関わっていると大変なのである。残念ですがその僅か六年の間で二名の自治会長が亡くなられ新会長に替わっている。神社の宮神輿渡御という氏子地域を神輿が巡行するという全国各地で行われている普通の夏祭り・秋祭りではあるが、この六年間で神社総代役員代表も三名も替わり、自治会の役員よりも高齢者で構成されている神社総代役員で物故者になられた方はちょっと指を折っても両手が必要な十名位もおられ、一番大事な鳶の棟梁も昨秋亡くなってしまった。
ごく最近のネット配信新聞によると、
千二百年続けている裸祭(愛知県稲沢市の国府宮神社)は女人禁制であったが、今年から女性が参加したという事例もあり、文化の新たな継承も生まれる。但し、男女混合ではなく時間帯を分け、法被を纏う方法で女性からのたっての要望により実現にこぎつけたという。
また、こちらも千二百年間続けられた黒石寺の(裸祭り)蘇民祭は最後の行事を人がいないという理由で閉じた。
三十年毎に行われる源義家で有名な平塚神社(北区西ヶ原、筆者の近く)の本祭は平成十四年に行われ、ちょうど三十回目の九百年であったという。私は実際に宮神輿巡行や女性神主さんの大パレードの写真を撮った事を鮮明に覚えている。
伝承形態 ことば 口頭伝承 文章 道具や模型 唄・踊りなどの実体験 |
文化の伝承は易しくないが、自分の時代にリソースがないという理由でいとも簡単に絶えさせてしまう事は非常な決断である。よくあるケースは神社仏閣の行事だが、日本・韓国では女人禁制の風習が多い文化でも、少しずつ変化がみられるようだ。
洋風の着物・簡単着物を身に付け、足元は皮のブーツもしくはカラフルな所謂有名ブランドのスニーカーにして、闊歩したいというシニアの女子が現れ、このような新しい意識と新しい行動は文化の創造の一つと思えるのだが?
日本では、古代日本(西暦九百年まで)、中世日本(千三百五十年)、近代日本(千八百六十年)、現代日本(二千二十年代まで)と大まかに区分すると区切りの期間では海を隔てたよその輩、異種文化の影響を受入れ、日本流の導入検閲がなされて異種文化が己のものに姿を変えて、いつしか和風、日本流、xx道みたいにしてしまう。これは日本文化の強みと言えます。
二十年毎に伊勢神宮では遷宮が行われ、斎宮が白木をもって建て替えられる。二千十三年が六十二回目だったそうです。ありとあらゆるものが新調され供される。これは日本文化継承の一番の強みでしょう。
注1;本誌 三河アララギ 平成三十一年1月号 芭蕉、、、中屋氏
注2;ふんどし姿の男たちが厄を落とそうと激しくぶつかり合う奇祭「国府宮(こうのみや)はだか祭」で令和6年2月22日、愛知県稲沢市の国府宮神社で開かれた。1200年前から続く伝統行事で、もみ合いに先立つ神事に初めて女性が参加。法被に身を包み「わっしょい」と声を上げてササを奉納した。
注3:蘇民祭 黒石寺蘇民祭(こくせきじそみんさい)令和6年は、2月17日(土)に妙見山(みょうけんざん)黒石寺で最後の開催