十一年前の事だが2013年二月初め、仕事でサンフランシスコへ出かけた。フライトの都合で(安いチケットで帰国曜日が指定されている)、一日オープンの日が出来た。そこで久しぶりにソノマ・ナパバレーにあるワイナリーツアーに参加した。
集合場所へ行くと私が予約したグループは、所謂米国を加えインターナショナルなお上りさんグループ。もちろんツアーの説明はバリバリのAmerican Englishを喋るドライバー兼ガイドの比較的若手の部類のお兄さん。気が付いただけでも、カナダ、韓国、イタリア、フランスなどからの観光客、もちろん私が日本人で一人。仕事でのカンファレンス英語とは違い、久しぶりに生英語に浸り、感激した。
さて、ワイナリーは三箇所見学がセットされていた。二つはローカルで製造した美味しいワインで、輸出していないと言う。もう一つの大きなワイナリー(Sebastiani)は海外に手広く輸出していると言う。先にSebastianiの話をしてしまうと、今やアルコール類は重たく手土産に瓶を持って帰る事が無くなってしまった。まあ、都内の店で探せば入手できるだろうと思い、Sebastianiが買えそうな店を帰国後ネットで探すと、驚いた。仕事で頻繁に乗降する神田駅近くにYというワイン専門店があり、そこでSebastianiが置いてあると言う事が分った。フライトで十時間かけ、さらに車で二時間かかる彼の地の美味しいワインが神田駅から一分で行ける所で手に入るのだ。これもグローバリゼイションの恩恵だろう。
他の二カ所の小さなワイナリーは米国内でしか販売していないと言う。カナダからの客がカナダへも送ってもらえないのかと尋ねても、アルコール関係商品は色々とtaxなどの手続きがあって出来ないという。恐らく、輸出となると生産量の問題や品質管理の方も国際基準にのっとってやらなければならないのであろう。バリバリの英語をしゃべれる米国のワイナリーでもGlobalizationへの足かせがあるのだ。ただ物流や輸出手続きだけならば、専門商社や輸出業者へ依頼すれば出来そうだが、オーナーさんの気持ちをそこまで動かすことは出来ないのであろう。
味に繊細で、ワインと食べ合わせる料理にまで気持ちが行ってしまうと、ただ自分のワインを輸出する事では済まないのであろうと善きに解釈した。フランス、イタリア、スペインなどは別として、もともと輸出業を目指して大規模なワイナリーが最近ではチリ・アルゼンチン、豪州・NZ, 南アフリカで造られていて、品質管理も現代的手法で行われている。非英語圏のワインが輸出されているのに、ナパやソノマの米国産ワインが輸出出来ない所に、我々日本人が考えるべきグローバリゼーションへの課題があると思う。
さて、ワイナリーツアーの四か月後に、少し真剣にグローバルマーケティング について考えた。米国株式市場上場企業にはForm 10Kという企業経営状況を詳しく説明した資料の公開が求められている。所謂企業業績、財務状況の説明に加え、Risk Factorという項目がある。過去幾つかの企業のForm 10Kを査読した事があったが、最近(2013年当時)目を通した企業のRisk Factorの内容は定型的なものであるが、企業のGlobalizationを考える際に参考になる。
以下、ある企業の概要(一部省略)を意訳で示す。企業経営実績は海外売上があるが故に、常に変動要因が大きい。自社の売上で海外売上の比率が大きく、将来の成長に向けても海外売上の割合は増加すると予測している。従って海外売上に依存する利益はかなりの企業リスクであり、次のような要因がある。
自然災害の他に
外貨変動
関税や他の貿易障害
政治的、経済的不安定性
通信分野や他の製品の政府許可(認定)を取得する難しさ
ある国では知的財産権の保護が不確かであることや保護レベルが低いこと
複雑な海外法規やそれらの処置に対応する事(コンプライアンス)が悩みの種
これらはバリバリの米系企業ですら身に沁みて体験、遭遇している課題であり、単なる語学(英語ではない)の問題でない事は明白である。異文化の中(衣食住、法規、金銭に対する意識、信用・クレジット、人をどのような経緯で信頼するとか)での実務業務を如何にマネージ出来るかが、グローバル経営で越えなければならないハードルである。
この十一年も前の経験を令和四年二月号で呟いたが、最近ではIT技術の進歩や社会の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)への関心が極めて高い。というのは国内でのDXが遅々として、特に行政サービスでの遅れが指摘され、民間での導入スピードが速く、折角のマイナス金利解消や昨年以上の賃上げ実施が為されるという経済環境が好転しかかっているという中で日本企業もデジタルマーケティング等のプラットフォームを充実させてさらなる成長を目指したい。
リスク管理が前面に出ると、BCP(事業継続計画)を真剣に検討すべきで、今やネット社会の中で、拠点分散やクラウドネットワーク、データセンターの分散化等々、インフラ対策・投資も厳しくなっている。それらを見極めたグローバルマーケティングが必要であることになってくる。