日本でも月を目指す宇宙飛行士の人選の結果が話題になっている。
本当に夢のあるわくわくする話である。人生100年と言われる現代でも、よく考えるとそうたびたびある夢のある話ではない。それも、応募された志高き人、夢をかなえようと幼き頃に心に決めた多くの中で、再チャレンジの一番高齢(といっても40半ば)の男性と20歳代の女性の2名が夢を叶えようとする一番札を抑えた。
米国が約53年もの前に月面に初めてブーツの足跡を付けたのだ。
技術をかじった事のある人間にとって50余年も前の未熟な技術で、今考えると能く月に行こうと、恐ろしい程の夢を持ったものだ。しかし誰しも数十年先の技術向上は決して否定はしないがそれがどれ程の高度化を達成出来ているのかも未知であって、数十年待って安心して夢を叶える行動を取っても意味がないのは明白で、今挑戦することに意味があるのである。
しかし、今年70歳になる自分が学生の頃、ちょうど大学院を目指して研究室に所属した時期に、日本では放射光リング(今は筑波研究学園都市に加えスプリング8という関西にある放射光リングの呼称が有名になり)が夢でその実現に向かって、装置開発グループや私のいた研究室は放射光と言ってもX線レベルの電磁波で、ある種の高強度のX線が得られたとしてどのような実験が出来るかというテーマを研究し始めていた。後年になって夢はかなえられてしまったのだが、真空の導管中を電子ビームを光の速度の近くまで加速させ、その電子ビームを磁場で少し曲げると、接線方向に放射光が発散し、それを応用しようとするものである。
大学院を卒業して、そんな放射光をも忘れて、現在のインターネットのベースとなっている光通信事業の開拓に夢中になっていた時、ある種のデータのわずかな差異に、、、それはかっこ良く言えば、品質問題、quality management, quality control of product performance specification問題に遭遇し、その現象は6シグマ運動や高度な統計数学が関わるものであった。
こう言った「がちがち」の数学が関わるものは時代によらず必要なのだが、感覚的には昭和から平成への時代感覚で、話を戻すと公開された月を目指す宇宙飛行士の選考過程で見られた内容は平成から令和の時代に必要なグループで人が仕事を成し遂げようとする際に要求されるコミュニケーション・リーダーシップに焦点が当てられていたようだ。さらに、科学者・エンジニアのような高度な専門職的作業は出来て当たり前、その先の火星探査への片道切符とか死に直面するような宇宙飛行士の人としての振る舞い、他人との関係性の取り方、ただリーダとして強引に他人を引っ張るだけではない姿、人物像を評価して見たいという意向が感じられた。
話を昭和から平成の時代にもどすと、私が関わった高度な統計数学が関わる光通信ネットワークの事例の話をして見たい。当時の日本と米国を結ぶような世界で一番長距離の大陸間海底光伝送では予め光が伝搬する光ファイバーのコアの部分の光屈折率を例えば9000㎞の長さ方向に渡って調整しておかなければならないのである。それは、単に標準的な製品仕様値(平均値+/-δ)を満足しているだけでは不十分で、9000㎞長の経路毎に例えば始めの50㎞は1.4650で次の50kmは1.4654というように長手方向の変動に関する値を管理制御すること、実際には光信号が伝搬する際の遅延時間を表記する光屈折率の波長分散という性能に関わる仕様のお化けみたいなものがある。
当時、米国の大手計測機器メーカーのものを使って計測するのが業界的標準になっており、私はもの作りのメーカ側の立場で製品検査を、お客様も値の張る米国製の計測器を購入し、受入検査をされていた。私が勤務していた米国メーカと顧客企業とで取り交わした仕様値を満足しており、受け入れ合格なのであるが、当時、私は技術責任者としてその膨大な品質データを検証していた。
何かがある? という疑問であった。
光ファイバーは石英ガラスから作られているが、その屈折率は空気中と真空中とでは値が0.03%にも満たない程度であるが、差異があるのである。起因は光の伝搬速度を真空中の値を1とすると空気中では0.03%程度遅いことにある。僅か1000分の0.3、ppm表示だと300ppm。そうなんです、検査時の基準を真空中の値、空気中の値とするかが両者で異なっていたことに起因して、データの分布図をメーカの出荷時と顧客の受け入れ時の値とを比較すると、一つのピークを持ったガウス曲線というよりも2つのずれたピークを持つガウス曲線としてみた方がいいのではないかという私が何かがある?と言った疑問が解けたのである。
こんな僅かな事も私にとっては当時夢のような話で、本社の製造部門だけでなく、開発・品質管理や顧客技術支援部門、その他多くの人達を巻き込み、課題・対策の情報共有が出来たというあたり前と言ってしまえばそうであるが、あたり前の簡単なことが認識出来ずに、月さらに火星探査へと連なる「かぐや姫の夢」を壊したくないのです。